WSJ掲載記事 “The Bar-code Revolution in Retail”

2024年7月19日

当記事は2024年6月20日(現地時間)NCR Voyix Corporationが公開したニュースの翻訳版です。

また、正式言語が英語であるため本内容(英文)についてはこちらをご参照ください。

ハイライト:

この記事のポイント2点

1)2024年6月20日時点で、カリフォルニア州の上院にて『セルフチェックアウトステーション2基に対して1名の従業員を配置することを義務付ける法案』が出されたこと

2)その法案(あくまでも法案であり、法律として制定されたものではない)に対して反対を表明する記事をウォールストリートジャーナルが取り上げたこと

2024年6月20日、ウォールストリートジャーナルはVirginia Postrel氏の記事『小売業でのバーコード革命』を掲載した。以下抜粋。

昨今、バーコードの読み取りを購買者が行うのか店の従業員が行うのかが論点となり議論されている。アメリカの半数以上の食料品小売業者はセルフチェックアウトシステムを採用しており、コンビニエンスストアやガソリンスタンドでも3分の1の店舗で導入されていることが、2023年NCR VOYIX社の依頼によるIncisiv社の市場調査によって判明した。

調査によると上記以外でも、37%のコンビニエンスストアがセルフチェックアウトを拡大させようとテストしている。

レジ係というのは小売業の中でも最も重要かつ難易度の高い職種である。レジ係はスピードと正確性、そしてセキュリティという3つの要素のバランスを取りつつ、帰り際の来店客らの印象を良くするように努めなくてはならないのだ。レジの革新は、単に生産性や利益の増加だけに留まらない。レジの革新は文化を反映し象(かたど)っているのだ。

19世紀以前、小売業でのレジ係はその職種を知らない人にとっては珍しいものだった。店舗は小さくスタッフ(見習いも含む)もほとんどが店主やその家族らだった。店員は来店客に普段店のカウンター奥で管理されている商品を出して見せ、来店客に購入費用を請求していた。現金は箱か引き出し、もしくはポケットの中にしまわれていた。特に、通貨がまだ珍しかった時代では、多くの買い物が信用取引で交わされていた。

数百名にも及ぶ店員を抱えていた19世紀の大規模小売店たちは、より緻密な店舗管理システムを必要としていた。店員それぞれが売上伝票を発行するために記録帳を持っていた。最も裕福で信用度の高い顧客は商品を好きに購入できたが、ほとんどの人は現金の店舗払い、もしくは現金の送付払いで購入する必要があった。特に忙しい時期は、店員を呼ぶ叫び声やベルの音、『キャッシュボーイ』と呼ばれていたレジ係に向かって来店客が突進する様子は混沌とした風景を生み出していた。現金は落としやすく、また失くしやすいものだったが、当時は給与の高くない店員が売上高の不足分を補填するという形で成り立っていた。

オハイオ州ダイトンにて、繁盛したバーとカフェを営んでいたJames Ritty氏は、常に入れ替わるバーテンダーたちが開きっぱなしの引き出しから店の金銭を盗み出しているせいで自分がどんどん資産を失っていることに気が付いた。この問題を解決するため、Ritty氏は世界初のキャッシュレジスターを発明した。その『Rittyの公正なるレジ』はキー入力された時に個々の売り上げが金属の数字でレジ係と来店客に表示することで各売り上げを集計した。そのレジの導入によって瞬く間に盗みはし辛くなり、更には各売り上げ記録が紙に穴開けされた『穿孔紙テープ』も盗みの抑止に繋がった。

店主はその日の終わりに合計売上高を計算し、会計通りに現金が揃っているかを確認できるようになった。

Rittyはすぐにそのキャッシュレジスタービジネスを売却した。それが1884年に全国キャッシュレジスター株式会社、現NCR Voyixの前身となった。

1890年代前半まで、そのキャッシュレジスターの発明にはいくつかの極めて重要な改良が行われた。例えばキャッシュドロアが全てのキーを打ち込まなければ開かない仕組みや、キャッシュドロアが開く瞬間にベルが鳴るようになった仕掛けなどである。このベルの鳴る仕組みから英語では売り上げをレジに記録することを『to “ring up” a sale』というようになった。

最終的にキャッシュレジスターには来店客と店舗それぞれに渡される印刷されたレシートが追加され、これが商取引のそれぞれの記録とされた。

柔軟に改良を重ねた結果、キャッシュレジスターは信用できる商品として世間に広まっていった。

このキャッシュレジスターは長年大きな成功を収めそして大きな信用を勝ち得てきたため、1970年代にバーコードが導入された当初、買い物客らはその新たな技術に抵抗感を示した。

豆の缶詰1つやケーキミックス一箱を価格シールなしで購入できるなどということは、買い物客らにとって想像もつかないことだったのだ。

政治家たちが反スキャナー論を持ち上げたりもした。

「数字による値段表記を新技術(バーコード技術)に置き換えることは、“商品の真実の価格”を覆い隠して信用を抜き取るものだ」と、カリフォルニア州の国会議員は主張し、店の品全てに価格を数字で示すよう訴えかける法案の起案者となった。

別の国会議員はその主張に反対の意を表し「バーコードを排除しようとする動きは事実上、レーザー光線を口実に、買い物客の比較購買の機会を奪うものである」と主張した。

古いやり方がまだまだ完璧とは言い難かったにもかかわらず、1974年9月、政治家や消費者運動家たちはバーコード技術への壮大な反対運動を展開した。

Ann Landers氏はバーコード式のキャッシュレジスターについて「レジ係が商品をレジに通すのが早すぎて、レジの鳴らすベルの音がまるで計算機の音のように聞こえる」とクレームを綴った手紙を送り付けた。しかし、このクレームを送り付けたLanders氏が旧世代システム(価格シールシステム)を使って買い物した際に69セントの価格シールがつけれたシリアルに対して1.69ドルを支払っていたことが明らかにされ、これは買い物客らの笑いを誘うこととなった。Landers氏の失態を綴った手紙の署名欄には「Landers氏は第二次世界大戦時代からずっと価格シールでの支払い額を間違い続けてきた」と記されていた。

バーコードの新技術について語ったロサンジェルスタイムズ紙の記事は、流行しているバーコード反対派による混乱を一蹴し、その後の未来をこう予期していた――「新世代のバーコードリーダー付き機種の方が旧世代の技術よりも早くて正確なチェックアウトを可能にし、買い物客らがより良い支払い記録(レシート)を受け取れることを証明するだろう」――と。

50年後の現在、買い物客らは商品一つ一つに貼られた価格シールではなく、棚に表示された価格がその商品の価格であることを完璧に把握している。

今日(こんにち)では、顧客は商品の説明が書かれた詳細なレシートを求めており、このような光景はバーコード世代より前の世代には想像だにできないものだっただろう。今では、ポイントカードが買い物客の過払いを修正することさえできるのだ。

また、スキャナーはその舞台裏で最も重大な影響を及ぼした。

リアルタイムセールスデータを小売業者に提供することで、新システムは在庫管理を革命し、生産性を大幅に向上させ、店舗がよりバラエティーに富んだ商品の在庫を持つことを可能とした。バーコードはCostcoやHome Depot.などのホームセンターの成長をも可能とした。

しかしながら、これらの利点全てが新システム導入当初から予期されていたわけではない。

セルフサービスチェックアウトについても同様の歴史が間違いなく繰り返されるはずである――もし法律がセルフサービスチェックアウトの進化を許せば。

小売業者は未だにセルフチェックアウトの利点と、セルフチェックアウト導入にあたって必要な盗難防止策との間で費用対効果のバランスを取ろうとしている。

セルフチェックアウトステーションを廃止したところもあれば、セルフレジに持ち込める商品数を制限するといった店舗も出た。多くの店舗は現金を受け取らない仕組みのセルフチェックアウト機器を設置した。

窃盗犯の目星をつけるために、カメラとアルゴリズムを追加した新たなシステムが構築された。その新システムでは、小さなロウソクが通ったことさえも検知できる。例えば、低価格の小さい商品を大きな高価格商品のバーコード上にかぶせてレジを通過させ、あたかも低価格の商品が購入されたというような窃盗事例でさえも『盗難と疑われる行為があった』と検知できる。

セルフチェックアウトシステムは未だにイライラさせる突然の故障など、店員の補助が必要な場合もある。しかし、セルフチェックアウトシステムは日夜進歩しており、より認知されてきていて特に若い世代の買い物客らの間で人気も出始めた。

2023年11月のNCR Voyix社が依頼した調査によれば、45歳未満の食料品買い物客の半数以上がセルフチェックアウトを行った一方で、60歳以上では買い物客の26%しかセルフチェックアウトを利用しなかったことが分かった。

カリフォルニア州議会ではセルフチェックアウトを抑え込もうとする新しい法案が検討段階にある。これはカリフォルニア州上院で民主党員のLola Smallwood-Cuevas氏によって起案された。

SB-1446(起案された法律の整理番号)は食料品店やドラッグストアにて2つのセルフチェックアウトステーションに対して1人の従業員を顧客アシストのために配置することを義務付けるものである。この従業員の水増し雇用はセルフチェックアウト技術の多くの効率性を取り去ってしまうだろう。通常4~6のセルフチェックアウトステーションに対して1人の従業員が配置されている。そして記者自身、8つのセルフチェックアウトステーションでさえ1人の従業員によってスムーズに稼働していたことを見たことがある。

最も重要な点は、この法案は従業員をどう配置するかを制限してしまうことである。従業員たちをセルフチェックアウトに縛り付けてしまうことは従業員たちの時間を効率的に使えなくする可能性が高い。

ECの利便性からの厳しいプレッシャーの中、ECを使わずにビジネスを行う従来型の実店舗の小売業者たちは『オンラインで注文し、実店舗で受け取る』というオンラインと実店舗の両方のいい所を組み合わせる仕組みがビジネス成功のためにますます重要となると感じている。しかし、この形態のビジネスでは常に誰かが店舗を回ってオンラインの各注文に対して棚から商品を取り出す必要がある。これは少数のセルフチェックアウトステーションを監視するよりも生産性の高い仕事だろう。

ほとんどの新技術はそれらを使用する組織やユーザーが何度も繰り返し使っていき適応するまで、その新技術の持つ全潜在能力を発揮するに至らない。そこに至るまでには『実験と改善』をする余地が必要である。

レジ係が買い物客に道案内やアドバイスを行えるようにすることで、セルフサービスの店舗に温かみのある接客の雰囲気が戻り、買い物客をECショッピングサイトの画面から引き離し、社交的な空間が提供されることになるかもしれないし、それは誰にもわからないことだ。